やさしさの押し売り

先週の金曜日のこと。


仕事先に向かって歩いていて、あと100メートルというところでした。
おばあさんがうずくまっていました。


よく見ると、どうも足をくじいたみたいで、それでこけてしまったみたい。
そのまま見捨てるわけにもいかず、助け起こして、どこに向かっているのか聞いてみると、後150メートルぐらい先らしい。
それなら、おんぶしてでも連れていきたいのだけど、本人は「大丈夫ですよ。ありがとう」と言ってる。
でも明らかに大丈夫じゃない。


そんなこんなしているうちに、他に30台の主婦らしい人と近くに住んでいるおじいちゃんも出てきて、行き先を聞いたり、助けようとしたり。
手押し車を押しながら歩いていたらしく、こけたときに手押し車もひっくり返っちゃってました。
上にダンボールの箱をのせてその中に荷物をいれてあったんだけど、ダンボールの箱が固定されてなくてそれもひっくり返ってて。


どうもその主婦の人はその箱が固定されてないのが気になるらしく「これはね、こうやってガムテープかなにかで固定しておくと大丈夫なのよ」と繰り返し言ってる。
まあ、それはそうかもしれないけど、今はそれは後回しでもいいんじゃない、と思うのだが、そうすれば手押し車が重くなって、安定すると思ってるっぽい。
でも、荷物はバナナ一房くらいのものだし、固定してあってもそんなたしにはなりそうもない。


おばあさんはしきりに恐縮してて、それに近くに住んでるから恥ずかしいっていうのもあると思うのだけど、しきりに「ありがとう。もう一人で歩けます」ってまだ言ってる。
それならと思って一人で歩いてもらったんだけど5メートルくらいでまたころんじゃって。


なので、その後は僕がほとんど抱えるような感じで一緒に歩きました。


そのおばあさんは正確な家の位置を教えてくれないので、さっきの主婦の人はそばを通る人に「この人を知りませんか?」とみんなに聞いてる。


それでなくても一人で歩けると思って外に出てみたら転んでしまって、そして、それで抱えられながら歩いてて、本人は恥ずかしいだろうに、さらに近くに住む人にそんな恥ずかしい状況を知らせなくていいのに。


確かに正確にわからないのは困るけど、ぼそっと「きたない家だから見せられない」というようなことを言ってて、それなら近くまでで後は自分でがんばってもらおうかと。


そうこうするうちに、近くっていってたのが実はそれがおばあさんの家ということで、到着。150メートルなんだけど40分くらいかかって、ようやく。
家からはだんなさんが出てきました。普通の家でしたよ。
で、主婦の人と近くに住んでるというおじいさんは状況を説明するんだけど、その合間合間に「一人で歩かせるのはあぶない」とか「ヘルパーの人とか頼めるよ」とか。


そんなことは本人が考えればいいこと。
それでなくても、自分が大丈夫だと思って歩いたら、歩けなくてショックでしょう。
さらに「もう一人で出歩くのはだめ」とか他人に決め付けられるのは嫌でしょ。
なんかおばあさんが言われているのに、僕がなんか情けなくなってきちゃって。


そりゃあね、その主婦の人やおじいさんが言うこともわかるし、彼女が善意で言ってるのもすごくわかる。
でも、それはね、やさしさを押し売りしてるだけ、って感じがしました。


こんな風に善意だと思って実は相手を傷つけていることって結構あると思う。
人と対するときには、善意であっても(善意のときほど、かな)、それが相手にどう取られるのか、気をつけないといけない。


こんなことを言ってるけど、実際におばあさんがどう思っていたのかはわからないし、こうして考えをめぐらしてることも単なる僕の思い込みなんだけどね。


でもでも、善意は相手が気持ちよく受け取ってこその善意であって、自分の善意を押し付けるのは善意でもなんでもないってことを、よくよく心に留めておくべきです。